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幻と消えた「建物探訪」の取材

ゾーニングが決まり、間取りがほぼ固まってくると、次に建築の構造を何にするかを考える。住宅設計の分野で著名な建築家の中には、間取りを考える前に、この構造を先に決めて、その後に間取りを無理矢理に当て嵌めていく手法をとる人もいる。

「先に建築ありき、生活はその中に無理やり詰め込んで」

いささか乱暴な話だが、構造や外観を優先すると、当然内部の構成に無理が出る。しかし、出来上がりは確かに美しい。住宅雑誌に掲載される優れた住宅を見ると、その傾向は特に顕著だ。実際、絵になる空間作りには、この建築を組み立てる「構造」が重要な位置を占めている。このことが分かっていても、都市部の制限が厳しい条件下では、つい生活空間としての間取りを優先してしまう庶民派建築士は分が悪い。この場合、施主には喜ばれるものの、悲しいかな、写真写りの良い建築ができる確率は低くなる。

さて、私の自邸の場合はどうだったのか。敷地が借地権の場合、たいてい地主との間の契約に「非堅固な建物に限る」という但し書き事項が入っている。地主サイドに立てば、土地を貸しているのに、簡単に壊せないような堅固な建物を作られては迷惑千万。私の場合も例外ではなかった。したがって、話は簡単。契約上、非堅固な建物、つまり木造の建物しか建てられなかったのだ。

読者の皆さんは、毎週土曜日に、俳優の渡辺篤さんがレポートする「建物探訪」という番組があるのをご存知だろうか。早朝にも関わらず、結構人気があるらしい。この番組で、建築家の自邸が紹介されることがあるが、それなりに格好がついているのは決まってRC造と相場が決まっている。

実は自邸の設計を始めて、この番組に登場する夢を何度も見た。取材を受けて雄弁に設計意図を語る自分の姿を想像して酔いしれた。やはりここは建築家の自邸である。理想を言えばコンクリートの打ち放しか、ガラスで身を纏った鉄骨造の方がカッコいいに決まっている。だが、世の中、そうは問屋が卸さない。

防火規制が厳しく、敷地にゆとりが無い場合の木造建築は、デザイン的にはすこぶる分が悪い。木造の欠点を補うために、専門家として適切な処置をすればするほどデザインの基本であるシンプルさから離れてしまう。どうせ出演するのなら、上品且つ曇りのない、さわやかな建物をバックに、さっそうと登場したい。アパートの併用もあって、そのレベルに達する自信が持てないので、次の機会に譲ることにした。

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