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気候風土に合った美しい建物

余談だが、私の学友の中に、高知で立派な住宅を創り出している男がいる。背が高く、気さくな性格は、ちょうど坂本竜馬を彷彿とさせる。それが功を奏したのか、「竜馬の生まれた町記念館」の設計を任されて、その後の観光ブームに一役買っている。最近では公共の建物の設計も増え、女子大の講師も勤めているので、巷では大御所と呼ばれているらしい。

市町村で、建物の企画が持ち上がると、設計競技(通称コンペ)が開催される。このところ、彼が出品すると毎回のように当選するので、主催者から
「太田さん、あんたはもういかんちゃ。審査員に回ってくれんかよ」
と言われると嘆いていた。
「そんなこと言うな。あし(私)だって、生活があるきに」

そんな彼は、若い頃、大学院を修了し、しばらく都内でビルの設計に従事していたが、どうも都会の生活に馴染めない。豪快な行動が周囲の誤解を生むらしい。頬がこけて生気がなくなり、ある日突然、生まれ故郷の高知に舞戻ってしまった。これを俗に「都落ち」と言う。

当然、ビルの仕事は少なく、生活のために住宅の設計を一から学んだらしい。苦節二十年、試行錯誤の末に、彼は地元の建築材料を使い、地元の腕のいい職人衆を集めて「土佐派の家」と呼ばれる独特のスタイルを確立したのだった。高温多雨のこの地方独特な気候風土にマッチした、剛健質実で風格のある住宅である。もちろん構法は木造在来軸組工法となる。

「雨は下から降るき」
ご存じのように、高知県は台風のメッカでもある。我々の想像をはるかに越える豪雨や酷暑に耐えるため長く軒を出し、土佐漆喰の白さが際立つ堂々とした外観は、伝統的な木組みの力強さと相まって、見る者を圧倒する力がある。本物とはこうした辛抱の中から生まれてくるようだ。

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