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地鎮祭の途中にアクシデントが

次に基礎を担当する鳶職人を選ぶ。多少迷ったが、清水棟梁が所属する工務店で古くからの付き合いのある人物に決めた。基礎工事の他に、上棟時の高所での組み立て作業、さらに足場組みなど、常に大工工事と密接な連携が要求されるから、気心の知れた者同士の方が良いとの判断だった。

解体工事が終わって、更地になった現場に夏草が生え始めた頃、いよいよ地鎮祭の時期となった。普段は友引でも仏滅でもいっこうに構わないと豪語してはばからない私が、いざ自分の番となると
「やっぱり大安がいいかな?」
とカレンダーを探すのを見て妻が笑う。

地鎮祭は、その地域の神社に頼むのが一般的だ。この近くのどこに神社があるのか探してみると、偶然、息子の通っている幼稚園の園長さんが神主だった。早速打診してみたところ、快く引き受けてくれた。

テント代を節約したので前日より天候が心配だったが、日頃の行いが良いせいか、地鎮祭の当日はよく晴れた。祝い事の儀式は午前中と相場が決まっているようで、午前11時に開始することとした。私達のほかに清水棟梁と鳶の親方、それに私たち夫婦の双方の両親が同席し神主の掛け声で地鎮祭の儀式が始まった。仕事柄、地鎮祭は慣れたものだが、やはり自分が施主と思うとハラハラドキドキ。競売や融資の件など、これまでの出来事が次々に思い出されて感極まる。祝詞奏上のところでは、何かこみ上げて来るものがあった。
 

神主が祝詞で、施主と施工者を告げるクライマックスにさしかかった。とその時、事件が勃発した。突然ケンカの罵声に似た異常に大きな叫び声が辺りにこだましたのだ。しかも絶え間なくどんどん続く。祝詞奏上の声はかき消され、神主が何を読み上げているのかまったく聞こえない。最初、私にも何が起こったのか判断がつかなかった。一同がパニック状態におちいる。どうやらその音は、祭壇の真後ろから聞こえてくるではないか。まさか神様が怒って・・・。

とにかく、式を中断すべきか迷った。しかし儀式は縁起物だ。中断してよいものか。ほんの短い時間に自問自答を繰り返す。一瞬動揺したように見えた神主さんも「負けるものか」と大声を張り上げる。TVのお笑いコントのようで、ハタから見れば大笑いするところだろうが、人間は予想を越えた事が起きると思考が止まってしまう。大笑いどころか私の頭の中は真っ白になった。

どのくらい経っただろうか。どうやらそれが隣接したマンションの開け放された窓から流れるロックバンドのCDの音だと見当がついてきた。ただし、半端なボリュームではない。明らかにこの式を妨害するための仕業と見て取れた。

「一生に一度かもしれない大事な儀式を・・・コノヤロウ」
こぶしを握り締める私は、完全にプロとしての建築士でなく、はじめて家を建てる普通の施主の心境になっていた。

と、一瞬その音が止んだ。一同ほっと安堵している様子が前列にいてもよく
分かった。握ったこぶしが少し緩む。が、それも束の間、また次の曲が始まり、あたりをつんざく大音響。もう我慢の限界を超えた。私はヤクザの親分のような目つきで、清水棟梁ともうひとりの新田大工に目配せで出動を要請した。二人とも、これまた黄門様の付き人、助さん、格さんの如く「待ってました」とばかりに音もなく動き出した。私は祈った。なんとしても式の間だけでも止めさせてくれ。

助さん格さんの功が奏したのか、しばらくしてようやくその音が止んだ。犯人は近所でも評判の悪い外人英語教師。今日に限らず騒音を発するらしい。賃貸マンションの大家から注意してもらいその場は静まった。前途多難。

秋風が心地よい九月初旬の出来事だったが、出席者一同、冷汗グッショリの地鎮祭だったに違いない。それからというもの、仕事柄、多くの地鎮祭に出席する機会があるが、この経験をしてからは妙に腹が据わって、少々のことでは動じない自分がいる。

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