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餅投げの儀式は全国共通?

職人達が引き上げた直後、子供達と爺ちゃん婆ちゃん達が現場を覗きに来た。
私と妻の両方の両親だから計四人。ガヤガヤ賑わしい。それぞれの長男と長女が築く初めての家となるのだ。一様に嬉しそうな顔つきだが、
「この不況の時代にこんなことして。本当に大丈夫なのか」
誰かがつぶやいた。いくつになっても親からすれば子供は子供、無理もない。

二日目もよく晴れた。秋晴れと言っていい。早朝から三台目のトラックが大通りに待機している。手際よく作業が開始された。私達はこの日のメインイベント、「上棟式」の準備のため一度自宅に帰り、午後に再度現場に戻ることにした。

ところで、最近は職人のほとんどが車で現場にやってくる。そのため、酒がつきものの、派手な宴会は行われなくなった。その昔、私の実家の上棟の記憶を呼び起してみた。当時、私は小学生。裸電球の下で大勢の人が夜遅くまでワイワイと騒いでいた覚えがある。竹で編んだ大きな皿にヒノキの葉が敷かれ、その上にご馳走が乗ったものが配られていた。もちろん餅投げの儀式もあった。

「あら、長崎も一緒よ!」
お祭り好きの彼女は、最近都内では絶滅した「餅投げ」のセレモニーを密かに企画していた。投げるのは施主である私達だが、参加者は長男の幼稚園の園児たちとご近所の子供達である。近くに住む妻の妹も更に輪をかけたハイテンションなお祭り大好き人間らしい。三人の幼子を引き連れ企画に参画したのは言うまでもない。その昔、故郷の長崎で両親が新築した時の記憶をたどって、朝から餅の確保に奔走していたようだ。駄菓子も用意しなくてはいけないらしい。

職人衆には手土産として、二合瓶のお酒、赤飯のついた祝い膳の折詰め、紅白饅頭(私が好物という理由)、そしてご祝儀が用意された。この他に今日現場で飲み食いするお摘みや冷たい飲み物が用意してある。これから大変な出費となる施主にとっては少々辛い面もあるが、ここはひとつ昔の慣習に則って、粋にババーンと大判振る舞いと決めた。

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