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最上階で感無量もつかの間

現場は午後になって屋根を構成する登り梁の組み立てに入っていた。私もまだぐらぐら揺れる柱に抱きつきながら、梁伝いに三階の床レベルを歩いてみた。これからずっと生活することになる三階の居住空間とそこからの眺めが初めて現実のものとなった。

「うん、日当たりも十分だ」

三階なので都心にしては遠くまで眺望が開け、開放感もある。ひとり感傷に浸っていた。

「よしよし、いいぞ。よくやったヨシキ君」

このときばかりは、オリンピックで銀メダルを獲得したあの美人ランナーの心境。少しだけ自分を誉めてやりたい気分になった。おっとここで、妻の采配と粘りにも感謝を忘れてはなるまい。

「お疲れさんでしたね、佳子さん。君はよく耐えて頑張った」

今度は、あの総理大臣が優勝賜杯を渡す心境で妻を褒め称えることにした。

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