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コンセントは多めに、変更は少なめに

さて、妻に任せたコンセントの位置図を見てたまげた。まあ、あるある。ここぞと思われる場所には、ためらいなくコンセントの記号が書き込んである。大手ハウスメーカーの標準仕様書に明記されている「各部屋の対角線上に2箇所」という常識は、彼女にはまったく通用しない。

「だって、一箇所は必ず家具でふさがれてしまうでしょ」

現実味を帯びた意見に押された。部屋以外では、(長男のケイスケが全速力で走ることになった)長い廊下に、3.6メートル毎にコンセントが設置されている。掃除機のコードが容易に届く距離らしい。さらに、カーペット敷きの階段の踊り場にも掃除用コンセントが忘れられていないのはさすが。建築士のレベルを超えていた。

「なるほど主婦感覚。恐れ入ります」

平面的に照明やコンセントの位置図が完成すると、次にそれを取り付ける高さを書き込んでおかなければならない。この高さが重要。特に、壁に取り付ける照明器具は、数センチ単位でその印象がまったく変わってくるから要注意だ。

また、家電機器が置かれる場所では、コンセントの位置が遠く離れていると、
コードがまる見えとなってしまい見苦しい。つまり、この配線が行われる時点
では、ほぼ完成し家具などが置かれた状況が見えていないといけないのだ。 木造の場合は、配線が終わった後でも、仕上げ工事の前なら多少の位置の変更は可能だが、コンクリート造ともなると事実上無理と言うことになる。実際のところ、私は設計監理を担当するどの現場にもこの時期に頻繁に足を運んで、自分の目で確かめた上で、位置の微調整を行っているほどだ。

しかし、一度配線した箇所の変更ともなると、職人にとっては意外と面倒な作業となる。「えー、ったく。もっと早く言ってくれなくちゃ、先生」

この時の職人のこわばった横顔が私はいつも怖いのだが、心を鬼にして、このひと手間を遂行する勇気が、後で泣かない秘訣なのだ。

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