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タイル貼り、ピンクの目地が赤信号

在来工法、つまり現場作りの浴室だから、内装としてはタイルが最も無難に思えた。もちろん、左官やヒノキ板など、その他のおもしろい素材も考えつくが、常に水が掛かり、湿気も多いことから、敢えて冒険するのも躊躇された。

数日後、タイルを選定する為に、新宿のショールームに出かた。実はこのショールーム、訪問はこれが初めてではない。それどころか、むしろ常連の域に達っしている。カタログでは微妙な色合いや素材感が掴めないし、私が好む品番が何故かすぐに廃番になっていく傾向にある。結局は、プロジェクトごとに出向いて、現物を見た上で、在庫を確認してその場で決定する方が効率が良いからだ。

これまでのホテル建築の経験からは、浴室の壁には200角のタイルが優等生と言える。施工の効率もさることながら、貼り終わった時、そのタイルの大きさが高級感を醸しだす。これが100角や150角だとやはり日常的すぎる。25角のモザイクタイルも面白いと思ったが、その分目地が増えて、後日、カビと格闘することになるだろう。

余談だが、浴室のカビは最初、かわいいピンク色で登場するらしい。この段階ですぐに拭い取れば楽なのだが、そのまま気付かずに放置しておくと、少しずつ黒ずんで洗剤でも落ちなくなるという。なんとなく人間様にも通じるような。あんなにカワイイ、ピンクのイメージの娘さんが、いつの間にか・・。あぁ、この先の想像は止めておこう。

翌日、イナックスの担当営業マンから突然電話があった。
「先生のご自宅ですって。じゃあ精一杯勉強します。お好きなものを選んでください」これまたうれしい役得である。さすがに
「エッ、タダじゃないの」(タダほど高いものはない事は知っている)
とは言わなかったが、お言葉に甘えて、私が選んだのは300角の御影石風のアガチスという最も高品質なタイルだった。

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