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最初の手直しは障子の追加

季節は移り、秋が深まった深夜の枕元。
「ちょっと寒くないか?」
「そうねぇ、言われてみれば」
何故か私は後頭部に冷気を感じて辺りを見回した。別に壁に穴が開いている訳でもなく、不思議な感覚だった。
「あれっ、髪の毛が薄くなったせいかな?」
「私も感じるからそうじゃないわよ。きっと」
という訳で、明かりをつけて真相を探ることになった。手のひらに当たる冷気を頼りに息を殺して見当をつけると、どうやらヘッドボードに近い、出窓のサッシの下端から隙間風が入って来ている。ここにはブラインドが取り付けてあるが、それを通り越して冷気が進入しているようだった。はて、欠陥サッシかとも疑ってみた。よくよくサッシの断面図を頭の中で描いてみると、
「ハハンなるほど」と直ぐに答えが出た。
普段はそんなにアルミサッシに近づいて生活していないから気に止まらないが、引き違いのサッシは、そもそも電車のようにレールの上を動いている。つまり戸車の一点でレールと接しているのだから、ガラス戸自体はわずかにレールから浮いていることになる。そこには確かに隙間が存在するわけだ。

寝室の続きにはウオークインクローゼットがある。そこに連続運転で何年耐えられるのか実験を兼ねて換気扇が設置してある。強制的に排気すれば、どこからか無理にでも空気が入ってくる自然の原理。寝室の入口は、加藤建具製作の建具なので隙間はほとんど無く、吸い付くような感触だ。とすれば、残るは、
「正体見破ったり」
出窓のサッシ下端のほんの数ミリの隙間から冬が忍び寄って来ていたのだ。

それにしても、建築畑に居ると自然現象には常々勉強させられる。だが、感心ばかりもしていられない。宿命的に建築は、常に自然との戦いという側面を持っている。なんとかこの隙間風を防ぐ方法を考えてみることにした。ブラインドがダメだとすれば、この出窓からの隙間風を遮断し、且つ柔らかな朝の光が享受でき、しかも時には開けて空気の入れ替えが可能な代物とはいったい何だろう。
答えは意外と早く出た。ただ悔しいかな、またしても建築は素人のケイコさんのアイデアだった。
「障子はどうかしら」
障子は敷居の彫り込みに添って、障子本体が隙間を作らず滑る優れものだ。光の透過の具合も和紙を介しているため柔らかく、目覚めの時にも優しい。
「多分、正解かもね」
好きこそものの、である。和風好みの妻に一本取られた私は、潔く早々にいつもの建具屋の加藤社長に障子を注文することにした。もちろん材料は(予算がない時の)スプルス材で、と念を押した。

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