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一番の反省点は何か

建築のプロとして、それなりに悩んで決断し、施工の一部始終を監督した住宅で、十五年もの間、四季を通して実際に暮らしてみて、大小、様々な反省点が見つかった。これらの改善、克服こそが私のノウハウだし、知恵が生まれる宝箱となっているのは間違いない。その中でも一番の反省点は何か。正直に語れば、多分、気密と断熱への対策に注力が足りなかったことだろう。
住宅の性能という観点からは、どちらかと言えば構造の方に私の注意が傾き、この分野への認識が不十分だったと反省せざるを得ない。
今では懐かしいが、当時は住宅金融公庫の融資を受けるために必要とされた公庫仕様の手引書。これに定められた基準値が最高峰との風潮が巷にあった。多分、大手メーカーもこれに準じていたと思う。それ以前は、基準値さえ明確ではなかったので、断熱材がゼロの住宅も珍しくないと推察される。
今から十五年前、確かに断熱は冬の寒さをしのぐことが優先されていた。そして温暖化が表面化してきた現在、むしろ夏の暑さ対策が重要課題となっている。『徒然草』の一文にある「家ノ作リヤウハ、夏ヲモッテ旨トスベシ」の文言が、時を経て再び脚光を浴び始めてきたのが興味深い。

震災後の国交省の指針では、建物を出入りする熱を制御し、使用するエネルギーを節約する目的で、窓も含めた外壁全体の断熱性能と気密精度が、当時と比べ数倍高く設定されている。もちろんコストに直結する話だが、これらを強化することで、確かに「冬暖かく、夏涼しい」環境に近づくのだから、我々現場を担当する者としても、追従する姿勢は間違ってはいないと思われる。近い将来、窓のガラスは二重か三重に、枠のアルミは樹脂に代わるだろう。

金融公庫仕様の我が家は、アルミの引き違いサッシが多用され、すべて一枚ガラス。事務所の入り口に至っては、ビル用のフロアヒンジなので、扉の周囲は隙間だらけ。断熱材も現在の標準仕様を下回る。凍える程ではないが、一階と三階の温度差は極めて大きい。それでも以前の古家よりはマシと思い、暮らしてきた。主な居住空間が三階だったせいで、寒さも幾分緩和されたようで、大袈裟に言えば、不幸中の幸いである。
ところが、逆に最上階のため、夏の暑さには閉口した。年を追うごとに室温が増していく気がしていた。妻の希望で、夏はどの窓も開け放してあるので、風のある日は耐えられたが、無風の時は、首筋から汗がしたたり落ちる。子供たちは、エアコンの部屋に閉じ籠って、まったく姿を見せない、。

築十三年目、住宅ローン返済の目途が付いてきた六月のある日、暑がりの妻が遂に決断した。
「もうガマンの限界。屋根を外断熱に変えて!」
果たして効果があるのか疑問だったが、「やってみなはれ」の心境で大工達を呼んだ。瓦屋根を除き、居間の真上にあたる平らな屋根の部分に、五センチほどの断熱材を敷き詰る。その上に輻射熱に効果があるとされるアルミシートを重ねてから、通気層を確保してガルバリュウムの金属屋根で覆うことにした。
そしてその夏の「今年一番の暑さ」と報じられる日中のこと。事務所のある二階から三階の住居部分に駆け上がった私は確かに感じ取った。
「おお、意外に暑くない」
去年までの暑さを体が覚えているのだ。確かに効果が確認できる。
「だから言ったでしょ。もっと早くしてくれればいいのに」
妻の勝ち誇った態度に抵抗できない自分が情けない。

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