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椅子を選ぶ

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我が家の食卓で、二十年以上使い続けた椅子が傷んできたので修理をすることになった。イタリア製の「ブレイク」という名品で、形も座り心地も気に入っている。しかし、修理代が予想を超えることが分かり、さりとて新品を購入する資力もない。そこで新しい別の椅子を探すことになった。

職業柄、世界の名品と呼ばれる椅子のほとんどを知っているが、懐との相談なので、おのずと候補は絞られてくる。それに、テーブルとの相性や部屋の雰囲気も考えなければならない。
「やっぱりこれよね」久しぶりに妻と意見が一致した。同じイタリア製の「キャブ」という椅子だった。

座も脚も背もすべて赤茶の皮で覆われた斬新なデザインのわりには、座り心地もまあまあ許せる。あえて許せるというのは、輸入品の椅子は、そのほとんどが靴を履いた状態で座面の高さが決まっているようで、素足で腰かけた場合、概して足がぶらつき、極めて座り心地の悪い状態となるからだ。

住宅の竣工が近づくころ、建て主から「どんな椅子がよいですか」と相談されることが多い。まずは予算を伺ったうえで、テーブルとの相性などを考えて提案することになるが、選択基準の一番は、この座の高さにある。ショールームでも、「とにかく素足で座ってみてから決断してほしい」と念を押している。

居間に置かれるソファーも同じことが言える。高級品、特に輸入品は、オフィスで使用する目的のものが多いので、まずは素足で座って、さらに寝そべって居心地が良いか判断してほしい。座が高いものや背もたれが低いものは、長時間のテレビ鑑賞には耐えられない。

「いつも、床に座ってゴロゴロしています」
そんな建て主に、大胆にも、カウチばかりを三台並べた特大のソファーを勧めたことがある。翌年の年賀状の写真に「超、快適です」と書いてあった。

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