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床はフローリングが一番。それホント?

最初の床材の候補は、やはりフローリングだった。このところ、住宅の設計を依頼されて、床は何がご希望ですかと聞いてみると、第一声は決まって
「フローリングでお願いします」
となる。今や畳に代わる床材の代表格とも言うべきこのフローリング信奉はいつの頃から始まったのだろうか。

思えば、今から40年も前に建てられた私の実家も、廊下は確かにヒノキの無垢板張りになっていた。新築当時、小学生の私は毎日のように米ぬか入りの枕のような袋を雑巾代わりに、この廊下を何回も往復させられた。今日では、児童虐待と見なされるこの行為、その甲斐あって、鏡のように顔が写るまでになった。

毎年、里帰りの際、光沢さえ残る立派な廊下にご対面できるのは感慨深いものがあったが、我々兄弟がそろって東京の大学に進学したのを機に、両親が代用品として飼いはじめた座敷犬が誤算だった。私の汗の結晶であるヒノキの廊下は、このバカ犬のトイレとなり、たった一年でマダラ模様の無残な姿に変貌してしまった。

さて、そんなことを思い起こすと、住宅での板張り、つまりフローリングの歴史は以外に古いのだが、どうも最近のフローリングは、美しい木目の薄くスライスした紙のような木の薄板が、何層にも重なった合板に貼り付けてあるものが主流となってきた。家具や壁に使用するのなら我慢できようが、これを床板に使うとなると、どうしても
「おっと大丈夫かい」
と心配になる。

この表面材は厚いものでも1ミリ、平均0.5ミリという事実を建て主さん達は知っているのだろうか。乾燥すると、反りや収縮が見られる無垢のフローリングの欠点をカバーする長所があるとしても、これではベニヤに紙が貼ってあるのも同然だ。しかもこの紙を補強する為に「傷がつきにくい」という実にもっともらしい理由をつけて、カチカチの被膜塗装を施してあるものが多いから、これでは板の上で生活しているというより、化学塗料の上を歩いている事になりはしないか。

効率性と経済性を重んじるばかり、どうも陳腐な文化に慣れ親しんでいく我国の現状に失望しながらも、孤軍奮闘中の私。間違っても、自邸にはこの普及版のフローリングを採用するわけにはいかない。

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