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欧州のフローリングに惚れた。でもね、

同じフローリングでも、欧州からの輸入品の中には、惚れ惚れするものがある。特にイタリアとドイツからのものは、合板に貼られている表面の美しい木目が平均4ミリもある。欧州のフローリングが厚いのは、土足で使用するためだ。リフォームの際、全体を削ってきれいにする必要があり、この厚みが無いとすぐに下地の合板ベニヤが顔を出してしまう。我が国では、そんなことが起こる前に、つまり三十年も経たない間に、家ごと解体されてしまうから、これでよいのだと聞いたことがあるが何とも淋しい話ではないか。

こうした欧州からの輸入品を知ってしまうと、とても国産のフローリングを採用する気持ちにはなれない。イタリアンノーチェ(欧州産ウォールナット)の幅広フローリングの上を歩いている自分を想像するだけで幸せな気持ちになれる。「人生、知ったらおしまい」なのである。

しかし、これらの輸入品は、中間マージンと国内で在庫しておく経費が上積みされて、すこぶる割高である。
「そんなに好きなら、自分で直接輸入すれば?」
妻がこともなげに言う。素人は気楽でいいよね。リスクだってあるんだよ。

以前、仕事でミラノに行った時、すばらしい家具を見つけて、設計中だった施主に提案したことがある。国内でも入手可能だが、価格は半分である。施主の「おまかせします」の一言に反応して、即日ミラノの家具屋にFAXを入れた。船便で運ばれてくるのを待つこと3ヶ月。受取の税関の書類はさっぱりわからず、とうとう音を上げて業者に代行を頼んだ。予定外の出費がン万円。ところが、組立の段階になって部品の一部が不足していた。さんざんFAXで不備を訴え、部品を待つこと更に一か月。相手の不備なのに、なぜか税関で払った追加がン万円。むろん施主から預かったお金では足りなくなった。
「イタ公のやつ・・」

ふと以前に手掛けたホテルアーサー札幌のロビーに敷いたタイル状のフローリングを思い出した。アフリカ産の黒檀に似た固い木を3センチ角のサイコロ状にして床に敷き並べるユニークなものだった。フランス人デザイナーが提案してきたものだが、私にはとても新鮮な素材に見えた。今回も、候補のひとつとして、当時の輸入業者に連絡を取った。もしかして、まだ扱っているのでは。在庫があれば最高なんだが。

期待を込めて、古い名刺と記憶を頼りに問い合わせてみると、案の定、廃番になっていた。この国では、それがどんなに良いものでも、手間のかかるものや、発注が少ないものは次々に消えていく。

我が家では、天井が高いこともあって、床暖房を採用することに決めていた。この場合、ムク材のフローリングや、複合でもムクの部分が厚い輸入品は避けた方が無難というメーカーの説明もふまえ、フローリング以外の床材を選択することになった。

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