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とにかく光ものに弱い女性たち

廊下の床はコルクタイルにする予定だったので、段差はつけないで、代わりの素材を探すことにした。そもそも妻が夢にまで見た床の間付きの和室をあえて変更した貴重なスペース。多少値が張っても存在感のある素材が欲しい。「ホテルのような家」がテーマだったことから自然に答が出た。石の床だった。

しかし、素足で歩く所に、大理石のようなピカピカを敷き詰めるほど悪趣味ではない。とにかく見た目に清潔感があり、温かさを感じるものが良い。そこで砂岩のライムストーンが候補にあがった。色合いはオフホワイト。一応大理石の中に分類されてはいるが、堆積岩なので冷たさを感じない。産地はヨーロッパ辺りで、比較的柔らかくて加工しやすいため、たとえばパリの街並みの大半はこれで出来ている。

ここに更に遊びを加え、ガラスのモザイクタイルで縁取りをしてみた。専門的には「ボーダーをとる」と言うが、ホテルでは外人デザイナーがよく使う手法で決して珍しくはない。もしこの自邸が建築雑誌に載ったら、誰かに少女趣味と嘲笑されるかもしれないが、三歳になったタカコがここで遊ぶ姿を思い浮かべて、「少し、かわいいアクセントを」との親心が勝った。

「その結果は?」と言えば、やはり女性陣にすこぶる好評となった。色とりどりのガラスモザイクが日光に乱反射して渋めの光沢を発し、硬い石の床に華やかな印象を与えている。やはり、本能的に女性は光ものに弱いようだ。

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