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使い出したら止められない食器洗い乾燥機

新しいものを扱う場合は、誰でも最初はぎこちないものだ。食事の後片付けが日課になった婆ちゃんも、最初のうちは食洗機にはまったく見向きもしなかった。

「東京に来てからシモヤケもできやへん。岐阜に比べて、どえりゃあぬくといで」
と言いつつ、もっぱら水洗いに徹しているようだ。だが、嫁と姑の摩擦は夫(この私)が進んで避けなければならない。妻が購入した食洗機をなんとしても活用させねばと考えた。

「油が落ちんで、なるたけ食洗機使やぁよ」
わざと田舎言葉で母親に指示を出してみる。あえて田舎の言葉を使うのは、叱る意味にとられない配慮からである。

そんなことがあって数ヶ月後、それはそれは器用に食洗機を使いこなしている母の姿を発見して安堵した。感想を聞いてみると、
「すぐに乾くでエエわ」
とのこと。洗うという本来の機能より、食器棚に収納する際に乾いていることが嬉しいようだ。特にコップ類は曇りも無くなり、手作業より数段美しく仕上がるらしい。食事の後の山のような食器類が、わずかな時間で消え去っていく。簡単な手洗いの後、すべての食器が食洗機に収納されてしまうので、流し台の上は、いつも何もない状態となるのが心地よかった。

「食器が流し台に残らないのがいいのよ」
導入を決めた妻のケイコさんが誇らしげにのたまう。彼女の口上はさらに続く。まず、食洗機の機能の中でも特に重要な油汚れを落とすために、使用するお湯は60度くらいの熱いものが効率が良く、このことを重要視して機種を決めたという。

しかしここで、夫婦の意思疎通が無かったことが災いを呼んだ。給湯器をキッチン専用とその他に分ければ問題はなかったが、効率を重視し、給湯器を一台にしたので場所ごとに温度は変えられない。シャワーなどでヤケドの心配もあるため、給湯器を普段使いで50度に設定した場合、食洗器を使用する時だけ毎回60度に変える必要が生じた。かわいい孫に万一のことがあってはいけない。気が抜けないらしい。

「いちいち温度の切り替えをする手間が面倒やでいかんわ」
最近、食洗機担当の婆ちゃんの愚痴が聞こえている。

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