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電気屋さんからイエローカードが

上棟式から一ヶ月半が過ぎた。いよいよ真冬に突入だ。もう午後4時には暗くなる。ほぼ屋根と外壁が完了し、大工たちは内部の間仕切りに取りかかっていた。この頃から電気工事が始まる。仮に建物を人間の体に例えるならば、電気設備は体の動きをつかさどる神経や血管組織のようなもの。たとえ異常が発生しても、骨や肉ならば外科の手術で何とかなるが、この神経や血管などは後から簡単に切ったり繋いだりは難しい。

確かに竣工後の建物で、クレームの対象となる頻度は、雨漏れ、建具の不具合に次いで、この電気設備の手直しが多いようだ。内装工事が始まると中に隠れてしまい、簡単に引っ張り出せないだけに、最初の計画段階から気が抜けない重要な工事となる。

今回は、自邸という甘えもあり、またコンセントや照明器具の位置までは、確認申請には関係ないので、ついつい後回しになっていた。いざ工事が始まると何かと忙しく、正式に設計図として完成していなかったので、案の定、この時期になって慌てることになった。

電気の工事会社からは、毎日催促の電話が入るようになった。清水棟梁から早く現場に入るよう指示があるらしい。

「あのう、先生。電気の施工図は、いついただけるんでしょうか」

本業のビルの設計も急がねばならない。3年間続いた名古屋のホテルの仕事の残務処理も残っている。私は気持ちが焦り始め、ついつい現場に顔を出しづらくなっていた。とにかく一日も早く電気設備を決めなければならない。

もちろん、ホテルの設計を得意分野としている私は、照明計画がその後のインテリアの雰囲気を大きく左右することを知っている。中途半端な図面は出せない。毎日の恒例となった夫婦の深夜会議で、照明の分野は私がすべて担当し、コンセント類の位置は、妻に図面の書き方を伝授して、後は任せることになった。

「使い勝手は、私の方がよく分かるわよ」

妻に任せて本当に大丈夫だろうか?本来は、空間全体を把握している設計士が先に作図して、出来上がった図面をひとつひとつチェックしていったほうが無難だし、後悔も少ないと思われた。しかし、不思議に、重なるときは重なる。他の仕事も待ったなしだった。

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