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建築家の自邸、満足と反省の物語

資産としての土地、利用するための土地(1)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語」

  2001/10/22(できるだけ毎週月曜日発行→毎週火曜日発行)

  第1章 土地を選ぶ

   3.資産としての土地、利用するための土地

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□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。はじめまして。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸
を建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 3.資産としての土地、利用するための土地


 競売の借地には、いくつかの大きな壁が立ちはだかっていた。

 まず、時間がない。詳細を閲覧してから競売入札日まで約3週間。
通常の不動産売買のように仲介業者がいないので、法律上の制約事項などすべ
て自分で調べねばならない。もっとも仕事柄、私には難しいことでもなかった。
仲介手数料が派生しなかったことも助かったが、一般の人には結構リスクが大
きいかもしれない。

また、競売物件は、2割ほどの入札金を納入して札をいれるが、落札すれば、
2か月ほどで現金にて残金を納めなければならない。期日までに残金を納めな
ければ入札金は没収されてしまうのだ。
私は、自分の預貯金はもちろん、親からの贈与、私の極小事務所の事業資金、
果ては子供のお年玉の貯金分まで電卓をたたいた。ホントの話。

競売の借地のことで、東奔西走していた私は最難関の壁にぶち当たった。
借地権には、銀行ローンがつき難いのである。
銀行ローンは原則として担保の上で成立する。担保は不動産、つまり土地や建
物に設定される。建物は古くなるにしたがって減価償却されるので、銀行とし
ては、土地に貸すといっても過言ではない。ところが、借地権ではこの肝心の
土地が、地主という他人様の所有物で、ローンの担保にならないのだ。

今回のように借地権を購入して新しい建物を新築する場合、担保となる建物が
完成して初めて金融機関は住宅ローンの融資をしてくれる。が、そこまでの資
金は、いったい誰が面倒見てくれるのか。 
つまり、多額の自己資金を持っていなければ、借地に家を建てるということは
絵に描いたボタモチに等しいのだ。
借地権の売買が今ひとつメジャーにならない理由がここにもあった。

の落札金を一時的に集めて、そのあと銀行ローンに切り替える作戦の私
に、『建て替え時はぜひ当行で住宅ローンを』と揉み手だった某都市銀行の営
業マンが、「借地ですかア」と揉み手を引っ込めた。
「借地は資産にはなりませんよオ」という言葉に、決心がぐらつく。
いくら、『借りる』ことに抵抗がないとはいえ、私だってホントは借地より、
所有権のほうがいいに決まっている。

 田舎からの上京組にとって土地から購入して家を作ることは、人生の中でも
相当な負担を強いられる。
せめて子供にはこのハンデを取り除いてやりたい。そんな親心で多額のローン
を抱える夫婦も少なくないのでは―。
かく言う私も一瞬頭を過ぎった。

『資産としての土地―』。銀行マンの言うように、このまま30坪足らずの所有
権の土地に建て替えた方がよいのか。
これまで、古家の建て替えプランはさんざん考えた。
建築家の自邸、まさにその技量が試される時。
狭いながら皆がアッと言う秀でたプランができないものか。

まるでパズルを解くがごとくあれこれ案を練る。
地下を総掘りしたり、屋上にはペントハウスを・・・。
法的規制が厳しく圧し掛かる。如何せん、狭い。
30坪足らずの敷地に、自宅兼オフィス兼2世帯住居を盛り込んだ妻の希望は、
きのこのようにでも建てない限り、到底叶いそうにない。

その昔、あの建築家の安藤忠雄さんが「都市ゲリラ」と称して小規模な都市住
宅を手がけていたが、今まさにその気分。
余談だが、この安藤さんがまだ無名の頃、私はアフリカのモロッコで旅の途中
に出会い、一週間程寝食を共にしたことがある。
実にユニークな人であった。
このくだりは話し始めたらキリがないので別の機会にしよう。

 私は建築士という職業柄、土地を見ると、その上に建物が立体として浮き上
がり、あたかも完成した建物が原寸大で把握できる。つまりこれから創ろうと
するものが完璧に想像できる。
古家の南側には、僅か50センチの距離をおいて3階建ての隣家が建っている。
西側にも2階建てのアパートが同じく手の届く距離に迫っていた。直射日光は
とうてい期待できない。
これが都会生活の現実か。
建て替えたあとの妻の落胆ぶりが目に見えるようで、身震いした。

考えたあげく、結論を出した。
自分の人生を今から息子に捧げるのはイヤだ。
私の両親は、田舎から息子2人を東京の私学に入れることと引換えに、つつま
しやかな生活をよぎなくされ、人生の楽しみの大部分を犠牲にした。
両親には感謝している。が、私にはできない。
私は、まず自分の人生を最高に楽しみたい。

結果として、私の死後、多少の金品が残ったとすれば、子供に軍資金として与
えるが、後は子供の力量にまかせたい。
もし、この私が親から世田谷区の一等地に百坪の土地を相続したとしたら、
こうしてまじめに設計の仕事を続けていたか怪しいものだ。

妻も同意見であった。たとえ資産として価値が低くても、まず、私達家族が広
くて、ゆったりと、豊かに暮らせる家を創ろう。
話は決まった。
そう、ここから脱出だ。

肝心の資金も、渋る銀行に代わって、住宅金融公庫で融資があっさり決まった。
しかも、完成前でも資金の交付制度があるという。
捨てる神あれば拾う神あり。
資金計画にも目途がつき、もう、気分は90坪弱のその土地に建つであろう真新
しい建物に酔いしれていた。

競売の入札日が近づいた。もし他人に1円でも高く札を入れられれば一巻の終
わり。強気と弱気が交錯し、油汗がでる。確かにこんな日が長く続いたら身が
持たない。世の大人が悪と知りつつ談合に走るのも頷ける。

当日、私は所用があり、開札場には妻が出かけた。子供を幼稚園に送り、その
脚で駆けつけたが、やや遅れた。堰をきって会場に入った瞬間、ついに神の声
を聞いた。


(つづく)

 
 
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