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建築家の自邸、満足と反省の物語

資産としての土地、利用するための土地(2)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語」

  2001/11/06(できるだけ毎週火曜日発行)

  第1章 土地を選ぶ

   3.資産としての土地、利用するための土地(2)

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□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。はじめまして。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸
を建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 3.資産としての土地、利用するための土地(2)


 「**番号**番、落札者○○ヨシキさん、○○ケイコさん、えーこれは共有で
すね。落札価格**円、以上。」
もし、ほんの数十秒遅れれば、この発表のアナウンスは聞かれなかったらしい。
運命的な出来事(とかく女性はこの手の偶然に弱い)に感激した妻は、今でも
時々この時の夢を見るのだそうだ。

 結局、応札者は他に誰も居なかった。
通常、まあまあ優良な競売物件には、十数人の応札があるそうだから、今回の
物件はまったく不人気だったわけだ。
思えば私達は、入札直前まで応札価格について悩み抜いた。競売には最低売却
価格が予め決められている。それをいくら上回って入札するかである。

 私達は結論として、その最低売却価格に10万円だけプラスして入札したのだ
った。広い借地権は人気が無いと判断したわけだ。
結果としてその10万円は無駄だったが、ほとんど最低売却価格で落札できたこ
とに大いに満足した。

 一般に借地は、所有権価格の6割程である。競売物件は、その特殊性から、
市場価格より3割程度安く評価される。さらに借地の競売となると、ここから
名義変更料として1割引いた価格が、最低売却価格と設定してあるため、私達
は計算上、通常の所有権の土地の4割にも満たない金額で落札したことになる。
バブルが崩壊したせいもあるが、昭和の最後の年に買った、あの私達を悩ませ
続けた古家付30坪の所有権の土地より安かったのだ!

 黙っていれば、外見上は普通の所有権の土地と何ら変わらないのだから、急
に資産家になった錯覚に陥ってしまう。
こんな事ってほんとにあるのネ。
住むための土地の極意に一歩大きく近づいた。

 落札した興奮がおさまると、気になることが頭をもたげてきた。
そうは言っても、我々以外に誰も入札に参加しなかった事実である。それほど
魅力の無い土地を買ってしまったのか。何か落とし穴が隠されているのではな
いだろうか・・・。
有頂天になったかと思えば、不安が広がり暗い気持ちへと二転三転する。
まったく、我ながら往生際の悪さに嫌になってしまう。

 この土地が風船のように奥で広がっていて、道路とは僅か4メートルしか接
していないことも、不人気の要因だったに違いない。当然分割は不可能で、車
の進入も容易でなさそうだ。

 入札締め切りの直前、もし車が進入できなかったらーとの不安から、土地と
道路の関係を測定し、別の広い駐車場の空き地にガムテープを貼って、実験を
試みた。「ウーン、何とか入るか。」私の言葉に妻は「私には無理かもー」幾
分意気消沈ぎみだ。
「いつかマセラッティを買ってあげます。」
結婚前の約束がまたひとつ破られていく。「嘘つき」のレッテルは当分消えそ
うにない。

 落札のアナウンスを聞いてから10日ほどして、私達の元に一通の封書が届い
た。「売却決定通知書」だった。
落札しても、「異議申立」がなされると、裁判所は、当事者に権利関係を聴取
したりするのに時間がかかる。その間、落札者は入札金も返してもらえず、た
だひたすら「決定」を待つのみらしい。
私達は、これも難なくクリアしたわけだ。
これで所定の金銭を裁判所に振り込めば、自動的に私達の所有、いや権利にな
る。不安な気持ちなんかになっている場合ではない。

 新しい借地人として、地主と折衝をしなければならないことがあった。
 第1に、地主に名義変更料を支払い、土地の賃貸借契約を結ぶのだ。
通常の借地の売買では、新しい借地人との契約を条件に、旧借地人が売買金額
の10%程の金額を地主に支払う。これが名義変更料といわれるものだ。
競売の場合は、これを買受人自ら行わなければならない。万一、地主が承諾し
なくても、最終残金を支払った日から2か月以内に裁判所に申し立てれば、地
主に代わって承諾するという制度がある。
金融機関の融資の条件にも「地主の承諾」という項目があり、最重要事項だ。

 第2に、現在、借地の上に建っている古いアパート併用住宅を建て替えるこ
とについても、地主に承諾を得なければならない。これには、建て替え承諾料
なるものが派生する。おおよそ、借地価格の5%~10%が相場だ。
なんだか、地主にずいぶんと支払わなければならないようだが、地主にしてみ
れば、借地の売買や建替えなどそうめったにあるものでもなく、いつもらえる
かわからないボーナスのようなものらしい。

 第3に、地代額の決定。地代の相場は、固定資産税の3~4倍というところ
か。この敷地で約駐車場2台分の額である。

 私は、電話で地主に面会を申し出た。ところが意外な返答が返ってきた。
「特にお会いすることもありません。全て管理会社に任せていますので、そち
らと交渉してください。」
これから永い付き合いになるので、丁重にご挨拶をと身支度を整えていた私は
だんだん腹立たしくなってきた。「挨拶くらい受けてもいいだろう。なにが名
士だ」

 あとでわかったことだが、地主には会いたくても会えない事情があったのだ。


(つづく)

 
 
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