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はじめに

この本は、今から約十五年前、これから家を建てる人のために、「建築家の自邸、満足と反省の物語」と題して、私自身が住宅を建てた時のエピソードをメルマガで連載したものです。

当時は、インターネットが普及し始めた頃で、設計事務所として時代に遅れまいとホームページを作成しました。主に、注文住宅の顧客の集客が目的で、そのためには、頻繁に更新が必要と助言され、実際に経験した「家づくり」であれば、話題に困らないと考えたのです。

ところで、私の枕元には、単行本がいつも一冊置かれています。読み始めると、最後まで読破しないと眠れない妻とは真逆に、私の場合は二ページ目に差しかかったあたりで、自然にまぶたが開から閉に移行します。また、子供達には内緒ですが、現国が大の苦手で、高校の古文の教師から、「卒業させてやる代わりに、受験後に源氏物語を読んで感想文を送れ」と念を押されました。

こんな私ですから、文章を書くのは大の苦手。最初の一年間は何とか発信を続けられましたが、その内、なかなか筆が進まなくなり、一か月に一回、三か月に一回。最初の頃は、千名近い読者がいて、時々、全国各地から激励のメールが届きました。しかしながら、筆不精と日頃の繁忙さに押され、どんどん時間が過ぎていきました。そしてついには挫折し、力尽きてしまいました。

あれから十余年。珍しく建築現場の監理が二か月ほど空くことが分かり、旅行に出るかどうか悩んだ末に、この時とばかり一念発起して、メルマガを最初から読み直し、再編集してみることにしました。

もともと軽妙な文章で、気軽に追体験を楽しんでもらおうと考えていたのですが、再度読み返してみると、稚拙な文章に加え、専門用語も随所に散らばり、だんだん説明口調になって、「途中から面白くなくなった」とご批評いただいたのもよく分かりました。どうも技術者の端くれとして、「新しく家を建てる人」のために、何か少しでも役に立ちたいとの使命感が、軌道修正する機会を逸してしまったようです。

登場人物は、失礼かと思いつつ、なるべく実名で書き記しています。あえて仮名にしなかったのは、この「家づくり」を通じて、すべての方々に感謝の気持ちがあったからです。どうかご容赦いただきたいと思います。

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単行本

建築家が自邸を建てた その歓喜と反省の物語

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