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建築家の自邸、満足と反省の物語

周辺の環境を読む(3)

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  メールマガジン 「建築家の自邸、満足と反省の物語」

  2001/12/11(できるだけ毎週火曜日発行)

  第1章 土地を選ぶ

   4.周辺の環境を読む(3)
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□ ご購読感謝

みなさま、こんにちは。はじめまして。
ご購読いただきまして誠にありがとうございます。

このメールマガジンは、これから家を建てる方のために、建築家の私が自邸
を建てたときのエピソードを物語風にアレンジしたものです。
少しでもみなさまの参考になれば幸いです。



■ 4.周辺の環境を読む(3)

 宝くじでも当たったらきっとこんな心境だろう。
一刻も早く朗報を伝えたい心境と、もう少し妻を落胆させておいてからの方が
ドラマチックか。そんな意地悪な反面を持つ自分を客観視しながら、頃合を見
て語りだす自分に酔った。

「実はあのマンション、うちの境界から14メートルも離れて建つんだ。つまり
その間は駐車場になるわけ。都の条例で、日影規制と駐車場の付置義務があっ
て、この計画ではこれが先方にも有利なんだよ。問題の日影は、一階部分が冬
場に午後1時頃から3時半まで影になるぐらいで、思っていたよりずっと日当
たりはよさそうだ。地主も近隣との紛争はなるだけ避けたかったんじゃないか
な、さすが名士といわれているだけあるよ。うん。」

 専門家として図面を読みきった自信を誇示すべく、低音で語っているつもり
が明らかに早口で、声がうわずっている。
ところが、さらに酔いがまわっていた妻は、飛び上がって喜ぶどころか上目遣
いで「そ~んなもの、建ってみなくちゃ分からないじゃない。」
 これまでの度重なる落胆が、妻の心をかたくなに閉ざしていた。

「それでも日当たりは悪くない。」ガリレオ、いや、この私には確信があった。
法的にいうと、この土地は第一種住居地域というところで、住居系としては規
制がゆるい方である。最悪、2階部分までほとんど日影でもしょうがなかった
のだ。地におちたどころか、地中深くつきささってもがいていた私の運が逆噴
射した瞬間だったかもしれない。
こうして私は光を手にいれた。

 光の他にも、いくつか留意した点はあった。
一般的な話だが、高級住宅街と呼ばれるところは高台と相場が決まっている。
下水や雨水の排水設備も整った今日では、水の危険性も低いと思われ、高台に
こだわることもないと思われるが、周囲より低い土地の場合は水はけが悪くな
りがちで、湿気に注意をはらう必要がある。後に詳しく述べるが、快適な住ま
い作りの第一歩は、わが国の場合、この湿気をどう排除できるかにかかってい
るといっても過言ではない。

 新たに自分が住む土地を探すのに先立って、私に設計を頼んできたA氏がこ
んなことを言っていた。
「その昔、土地が低かったことを示す地名の所は避けたいんです。例えば谷、
窪、沼、下、川、池とか」私はその話を聞いて妙に納得したことを覚えている。

 一概には言えないにしても、確かに地名は昔の地形を代弁していて、ひとつ
の目安にはなろう。私が取得したこの辺りの地名には塚が付いている。塚とは、
土を小高く盛り上げて作るものだから、その昔からやや高台だったことは見当
がつく。
また、私の経験でも、高台の方が地盤が固いことが多い。住宅で三階建てを作
る機会が増え、その度に地質調査をするようになって気ずいたことである。

 ところで、住宅のための土地を購入する場合、ある程度土地勘のある地域を
選ぶことが多い。かくいうこの私も、約十年間慣れ親しんだ古家から、僅か五
百メートルの距離に新しい棲家を選んだ。土地勘のある、なしにかかわらず、
ある程度簡単に周辺の環境を読むのにいい方法がある。

 図書館に置いてあるところもあるようだが、不動産会社には常備されている
「住宅地図」を見てみることである。有名書店でも購入できるが、やや高価な
のが玉に傷。住宅地図の最大手「ゼンリン」にはインターネットで有料サービ
スがあるようだ。
 この地図は、縮尺が2000分の1程度と一般の地図よりかなり大きく、一軒一
軒の住宅やビルが名前入りで書かれている。土地の形状も概略判断できるし、
隣家との離れ具合なども見当がつく。駅からの距離も計算できるし、学校やス
ーパーの存在も一目で分かる便利な代物なのだ。候補地が見つかったら、この
「住宅地図」を活用し、自分が鳥になった気分で、周辺の地域を眺めてみることを強
くお勧めしたい。

 「住宅地図」で見ると、高級住宅街と呼ばれているあたりは道路の幅も広く、
比較的ゆったりと配置された地区が見えてくる。概して、最寄駅からやや離れ
ているいることが多い。一説によれば、電車を利用しなくてもよい人々が暮ら
す地域なのだそうだ。うらやましい限りだ。
「ほんの数十年前、農地だった所に新しく道路を造り、分譲された住宅地を親
が買っただけですよ。すでに街だった所は高くて買えなかったからー。」
私に注文住宅を頼んできたB氏は謙遜してこう言った。今も、高級住宅街の推
定数億円の土地に住んでいる。あながち間違いでもないだろうが、現在の税制
の中で、その資産を維持できているのだから凡人のはずはない。

 新宿駅から私鉄で一つ目の駅下車、徒歩4分。我が家はこの立地にある。
かの「住宅地図」で上空から眺めてみると、まさに住宅や商店の混在した密集
地。都心から近いからアパートも多い。どうひいきめに見ても、高級住宅街と
は程遠い。
以前、あの隣に開業していた医者から逃れるために、他の地域も考えたことは
ある。駅からやや遠いあの高級住宅街も実は候補地には入れてみたのだった。
しかし、一度住んだが運の尽き。どうしてもそこで暮らしている自分の姿がそ
ぐわない。「まあ、この辺りが私達の分際では相応しい。」凡人の私は思った。

(つづく)

 
 
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