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プロバンスの風に吹かれて

青年マンガ「ざこ倹」のモデルにもなった弁護士の今井先生が、法廷を舞台にしたNHKの人形劇教材の監修もされている。その番組が世界的なコンクールの賞にノミネートされたようで、その表彰式が南仏のカンヌ市で行われるという。

カンヌと言えばあの国際映画祭の時、ハリウッドスター達が闊歩するレッドカーペットが有名。
「ところで、先生もあの場所を歩くのですか」
「もちろんですよ。緊張するなあ」
話が盛り上がり、同行して現地のホテルで祝宴を催す運びとなりました。

カンヌをはじめ、避暑地で有名なニースやモナコのあるプロバンス地方へは今回が二度目。あのバブル期、ミラノでリゾートホテル用の家具を調達した後、親友の田代君とF1レースが開催されるモナコの市街地コースをレンタカーで追体験したり、ニースの代表的なホテルネグレスコに泊まってセレブ気分を満喫したことが懐かしい。フランス語のメニュから一番高いピザを注文すると、ムール貝のむき身が山盛りになって登場。特有の臭みにしびれて、あれから二人ともムール貝の入ったピザがトラウマになった。

どうせなら、と勉強を兼ねて、近代建築の宝庫と呼ばれるマルセイユから旅を始めることにした。最も関心のある建物は、巨匠ル・コルビュジェの代表作「ユニテ・ダビタシオン」という集合住宅。コンクリート剥き出しの力強い柱が建物全体を持ち上げた、当時としては革新的な設計で、レンガや石造りの重厚な建物群に慣れた西洋の人たちの度肝を抜いた記念碑的な存在。建築家を志すなら一度は見ておくべきと言われているが、半世紀近く経って、建築家を諦める頃のご対面となった。フランス第二の都市マルセイユには、確かに斬新な建物がいくつも見られるが、歴史を重ねた街並みの中では、どうも異端児のようで
シャッターを押す気になれない。

どうせなら、と勉強を兼ねて、最近の旅行ではその場所にある最高級ホテルに泊まることにしている。どちらかと言えば、私にとってはこちらの方が栄養価が高い。多くの場合、古い立派な建物がホテルに改修されているのだが、五つ星ともなると品格が伴い、よく手入れもされていて感心するところが多い。

表彰式の二日前、モナコの五つ星ホテル「オテルドゥパリモンテカルロ」に現れた今井先生は、何とタキシード姿。ノーネクタイの私は少し気後れしたが、夜景が美しいメインダイニングで同行者数名と大いに盛り上がり夜が更けていった。仕事の都合で、授賞式には参加できず一足先に帰国したが、次回お会いしたらレッドカーペットの感触を聞いてみたいと思う。

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