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琵琶湖周航の歌

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近江路を巡る旅に出た。この時期、紅葉のベストシーズンでもあり、京都周辺のホテルは全て満室。大津市街も諦め、守山市のビジネスホテルを予約した。宿のホームページで、スーパー銭湯が隣接していることが決め手となったが、実際は歩いて5分も離れていた。

この街を詳しく知らないが、地方都市としては発展組なのだろう、幹線道路が何本も交差し、街道沿いに見慣れた看板のチェーン店がひしめく。もちろんそんな処で安易に夕食をとることはできない。とりあえず銭湯を出てから、よさげな店を徒歩で探し廻って再度汗だくに。流しのタクシーも皆無だし、もう夜も九時近い。で、妥協して入ったホテル近くの和食店が何と大吉。

「今まで生きてきて、一番美味しい野菜に遭遇」

同行の仲間達も絶賛する「契約農家の取れたて野菜」。褒め立てたら、店主語る語る。弱冠27歳の苦労人経営者に久々に元気をもらった気分。このこだわりは建築にも通じる。

翌朝、ホテルから数分の琵琶湖畔にある佐川美術館に立ち寄った。開館して二十年近く経過しているが、新しく茶室を増設して勢いを感じる。平日でも来場者は意外と多い。平山郁夫画伯の作品が充実しているせいであろうか。氏の作品にはこれまでも幾度か対面しているが、今回じっくり一連の水彩画を凝視してみると、その力量には孤高の迫力が感じられた。

いつも思うが、美術館は展示される芸術作品にも劣らず、建築そのものが芸術の域に達していることが少なくない。この美術館もその一例だ。楽茶碗の第一人者による監修も見事だが、竹中工務店の技術力によるところが大きいと見た。この大屋根を特徴とする美しい建物、旅を終える頃に気づいた。デザインの原型は、近江八幡の古い街並みの商家の佇まいにあった。文化の伝承に乾杯。

「志賀の都よ いざさらば」

琵琶湖周航の歌を口ずさみながら夕刻に米原に向かった。

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