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タイル投げの名手

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久しぶりに木造住宅の外壁にタイルを貼った。

雨仕舞のために、下地は無塗装の窯業系サイディングとしているので、防火性能は足りている。つまり、外壁のお化粧としてタイルを貼ったのだった。理由は簡単、経年変化が少なく、風雨に曝されてもほとんど劣化しないからである。

敷地が狭いため、軒の出のない建物では、有効な方法と考えた。

思えば、私はタイルと縁が深い。まず、物心がついた頃からタイル投げが得意だった。川や池に向かってタイルを上手く投げると、水面を滑りながら何処までも飛んでいく。あの頃、故郷の道端には掃いて捨てる程タイルの破片が落ちていた。

岐阜県の東濃地方と呼ばれる多治見市、土岐市は、タイルの生産地としても有名である。私が通っていた多治見北高校の周辺にも、当時、多くのタイルやレンガの工場があった。最近では、その数は激減したと聞いているが、今でも主な産地であることには間違いなさそうだ。実際、この建築の世界に入ってからも、タイルの視察や検査で何度もこの地方を訪れている。

タイルはパレットで一度に生産するため、均一に出来上がる。それが美しいという見方もあるが、私にはどうも無機質で心が無い建材に思えてならなかった。しかし最近、接着剤も改良され表情も多彩になってきたので、外壁材としても見直したいと思っている。

私の生家に近い町はずれに、偶然見つけた小さなタイル工場がある。TNの林さんは未だ若い経営者だが、新しいタイルづくりの試みを続けている。特徴は、ライムストーンに似た淡く優しい色使い。これが世間に揉まれ角が取れてきた私自身の心境に呼応する。

今回、他社のショールームで好みのタイルを見つけて発注したら、現場に届いた梱包にTNの文字が印字されていた。あの工場の煙突と故郷にひとり暮らす母親の顔が浮かんだ。

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