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ゲボゲボが常備されることに

ところで、住み始めてしばらくして経ったある日、この洗面所でもうひとつ問題が発生した。排水がスッと流れなくなったのだ。一般的に洗面器には、お湯や水を溜められるようにポップアップというツマミが付いている。シンク一杯に水を溜めておいて一気に排水しながら、これを上げ下げしても排水の勢いはそれほど変わらない。通常、衛生器具と呼ばれる洗濯流しや洗面器には、下水管や排水桝から臭気が逆流しないために、器具のすぐ下にトラップと呼ばれる水溜りができるための装置が取り付けられている。簡単なものでは、配水管が一回グニュッと回転しただけのものもある。

排水管が詰まるとすれば、最初にここを疑うのが常識。何とかしようとあれこれ試みるものの、そのトラップを外すには専用の工具が要る。長時間仰向けになっている私に
「あなた職人じゃないのに大丈夫なの?」
いたわりの言葉と分かっていても、私達夫婦の場合には時々妙な意地が働く。
「この程度のトラブル、何とかしてやるぞ」
と余計な力が入ってしまうのだ。さらに仰向けの姿勢で配水管との格闘がしばらく続いた。と、その時、婆ちゃんの脚が見えた。
「なんやぁ、排水が詰まったか。ゲボゲボ買ってきたらどうやね、百円ショップに売っとるで」(これすべて岐阜弁)

ゲボゲボとは棒の先にゴム製のお椀が付いた特殊な用具で、正式な呼び名は分からない。しかし、その昔、どこかで見たことがある。早速、近所の金物屋に出かけて
「ゲボゲボありますか」
確かに売っていた。持ち帰ってから、少し水を溜めておいてから、力づくでお椀を潰したり戻したりするうちに、黒く細かいゴミや髪の毛が浮いてきた。多分、トラップの曲がり部分よりは、上下する栓の奥で、髪の毛などが固まっているように思われた。
「確かにゴミが詰まっていたんだ」
と判明した瞬間、どちらの洗面器からも溜まっていた水が勢い良く排水されていく。器具が正常に働くことがこんなに気持ちのよいものかと再認識した一日だった。それからというもの、このゲボゲボは我が家の常備品としての地位を獲得し、洗濯機の脇に鎮座することとなった。次回からはこれを新築祝いの定番にしようかと思っている。

昨今、このような衛生機器は、確かにデザインがよくなってきて嬉しい限りだ。しかしその反面、裏に隠れた配管部分や排水桝は依然として従来のままである。臭いを遮断する為のトラップの形状や、流れが悪くなった際のメンテ方法の追求など、改良の余地がまだまだ多くある。

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