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理想は露天風呂

浴室の広さについて考える。我が家の場合は浴槽がやや大きいこともあって、一般的な一坪の大きさより、幅、奥行き共にやや広くしてある。ユニットバスのサイズに換算すると1620に匹敵するようだ。私は毎日、二人の子供のどちらかを誘って入浴を続けているが、ひとり半でちょうどよい広さのようだ。これ以上広い場合を想像してみても、冬場はちょっと寒かったかもしれない。それは広いに越したこともないのだろうが、トイレ同様、基本的にひとりで使用する所だから、温泉旅館のような広い風呂にひとりポツンとは、いささか寂しい感もある。仮に豪邸であっても、適当な広さというものはあるのではないだろうか。

さて、この浴室について、もう一度設計し直すとしたらどうするのか。家族皆に聞いてみても以外に不満はないようだ。しかし、数年後には娘のタカコに断られ、自分ひとりで入浴することになることを想像すると、小ぶりの窓と均一なタイルで囲まれた閉鎖的な空間はなんとも味気なく、思索に耽る以外に方法が無い。
「そうか、窓の外に緑の置ける小さなベランダでも欲しかったなぁ」
ひと足先に長男に振られた妻のケイコもまったく同感だった。
寒さを怖がるあまり、浴室内の窓は換気用に限定して小さくしたのだが、実際には三階のせいか、窓からの冷気はまったく感じない。だったら広めの窓を開けて、目線まで立ち上がった壁に囲まれた小さな中庭に、好みのモミジや枝垂れ梅の鉢植えを配す方法もあった。ライトアップでもして、枝が風になびく姿を眺めつつ、甘酸っぱい初恋の君なんぞに想いを馳せるのも悪くなかったかもしれないと。
ともあれ、狭い空間だからこそ、視覚的に広がり持たせるテクニックとして、建築家であればこれくらいのことはさりげなく実現しておくべきだった。今にして思えばちょっと残念な次第である。

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