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忘れていた防犯対策

さて、心配した電気代はどうだったか。住み始めて半年も経った頃、恐る恐る引き落とし口座の伝票を垣間見た。なんとこれが予想の半分ほどで納まっているではないか。引っ越したのが三月。冷房や暖房が必要のない中間期だったことを差し引いても、我ながらプロとしての誇りが蘇る熱い瞬間だった。
その理由を推測してみると、照明器具は蛍光灯はもちろんのこと、白熱灯も40Wや60Wがほとんどなので、エアコンなどと比較して、長時間使用しても電気代はそれほどでもないのだろう。また、私の自邸の場合、住居部分が三階にあることで日当たりもよく、おまけに天窓が四台もあるので、照明を点灯する時間帯が少ないことが影響しているという結論に達した。

新居に移って数年の間に、電気関係で手直しをした所を揚げてみる。最初に不備を感じたのは防犯設備だった。元来、私は「性善説」である。訳あって、最初から「性悪説」を唱える妻からみると、単なるお人好しなのだそうだ。生まれは、岐阜県可児郡可児町。平屋だというのに、夏の寝苦しい夜は網戸だけで寝入る平和な田舎育ちである。今回の自邸でも、せいぜい玄関ドアに鍵を二個つけただけで済ませてしまった。ところが、併設したアパートに三人のうら若き女性が入居してきてから考えが変わった。
外観のデザインとして好ましくないので、郵便ポストを建物内部の少し奥まった場所の壁に埋め込んだのがいけなかった。最近になって、ポスティングという宣伝チラシを配るアルバイトの兄ちゃんたちが頻繁に見られるようになった。多い日では、その数、数十枚。三日でポスト一杯になるほどだ。
いかがわしい内容のチラシも多い。偏見でもあるのだが、彼らは一様に動作が緩慢で怪しげである。そんな輩(やから)が何の断りも無く、我が家の玄関先をウロチョロする毎日となった。このチラシの数から判断するに、一日に何十人もの見知らぬ人達がポストを求めて、建物内に侵入してくるのだからたまらない。失礼だが、そのうち誰もが痴漢や空き巣狙いに見えてきた。
「あなた下手に注意しないでね。最近の若い人たちは怖いから」
妻の忠告はさらに続く。
「我が家には、幼い子供達もいるんですよ。逆恨みだってあるんだから」

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