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懐かしい風景がそこにあった。

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「朝日住まいづくり2010」でお知り合いになったTさんご夫妻。終の棲家の建設予定地を訪ねてみた。中央高速で西に向かって約1時間。津久井湖を眼下に見下ろす小高い丘は、南仏のリゾート地を彷彿とさせる。

「敷地はこの辺りでいいかしら。」奥様の笑い声が軽やかだ。

つまり有り余るほど広いという意味。候補地の周囲には、樹齢が定まらない大きな柿の木や枝垂れ梅、桃、藤などの樹木がその枝振りを競っている。
湖に続くなだらかな傾斜地には、さまざまな野菜が育ち、そこには適度に整備された自然の桃源郷が広がっていた。

梅雨の晴れ間というのに、湖面からの涼風が心地よい。

「子供の頃は、川で遊んだものよ。」

川が堰止められて津久井湖になったとは初耳だった。背後の山林や、遠くの竹やぶが荒れ始めているそうな。こんなところでも、自然は少しずつ姿を変えている。

八十を少し超えた優しそうなご両親が、あの懐かしいサイダーを振舞ってくれた。
一瞬、私の脳裏には、岐阜県可児郡の生れ故郷が蘇った。湖が見えることと、ニワトリが闊歩しない他はあの頃に似ている。

「娘が帰ってくる。長生はするものだ。」日焼けした父親の笑顔に書いてある。

畑を案内してもらい、抱えきれないほどの野菜をお土産にいただいた。
Tさんご夫妻には内緒だが、新築の設計図の施主は、すっかり自分になっている。

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